2020年 03月 20日
クラシック雑記帳 35 「幻のピアニスト」リヒテル |
2020年3月20日(金)
ラフマニノフ:
スヴャトスラフ・リヒテル(1915~1997)は105年前の今日生まれた。ドイツ人を父に持ち、ウクライナで生まれたソ連の偉大なピアニストとされた。でも当時の世情もあって長く彼のピアノは西側諸国の聴衆には聴くことは出来なかった。ソ連から初めて国外ヘ出て、東欧諸国での公演が認められたのは1950年、35歳の時。このころからようやく徐々に一部の録音などが出回り、西側諸国にも認知されるようになる。
反してどういうわけか早くから西側に知れ渡っていた同じソ連のピアニストエミール・ギレリスがユージン・オーマンディと共演して、オーマンディが最大の賛辞を送った時、ギレリスが「リヒテルを聴くまで待ってください」と語ったという逸話もこのころで、ほかのインタヴューでも「現代ソ連のピアニストで、あなた以外ではどんな人が立派か」との問いに、てっきりそのときレフ・オボーリンの名が出ると誰もが思ったが、「スヴャトスラフ・リヒテルです」とギレリスは即座に答えた。そしてこうも言った。「リヒテルは旅行嫌いなのであまり外国へ出たがらない。もし気軽に外国へ出て行けば、彼は世界中を驚かすピアニストになるだろう」そんなことでリヒテルはますます「幻のピアニスト」として注目されるようになる。
そして1958年2月9日にブタペストで行われたライヴの録音が初めて正式に西側諸国にも発売されることになる。この時の演目がシューベルトのピアノ・ソナタ第19番、ムソルグスキーの「展覧会の絵」、それにドビュッシーの曲などであったが、「展覧会の絵」は不朽の名演奏と評価されているが、なにかせかせかした演奏で、正直ぼくはあまり好まない。
それよりも、その翌1959年にドイツ・グラモフォンのスタッフがワルシャワに乗り込んで録音が行われたといわれるワルシャワ・フィルとのラフマニノフのピアノ協奏曲第2番が素晴らしい。
もともと旅行嫌いとは飛行機嫌いのことで、そのため名が知れ渡ってからもなかなか日本を訪れることはなかった。そしてついに日本の聴衆にとって55歳になった「幻のピアニスト」の生演奏に接する機会がやって来た。1970年の日本万国博覧会の際にようやく初来日が実現したのだ。そのインタヴューから10年ほどの歳月が経っていた。このとき東京、大阪でリサイタルが行われたが、演目に、ブタベストのライヴと同じシューベルトの遺作ハ短調ソナタ(第19番)が組まれた。
「幻のピアニスト」や「奇人ピアニスト」と称されたリヒテルであったが、のちには気さくな親日派でも知られた。
ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調 D. 958
スヴャトスラフ・リヒテル - Sviatoslav Richter (ピアノ)
録音: 9 February 1958, Budapest Zeneakademia, Budapest
ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 Op. 18
スヴャトスラフ・リヒテル - Sviatoslav Richter (ピアノ)
ワルシャワ国立オペラ管弦楽団
スタニスワフ・ヴィスウォツキ - Stanislaw Wislocki (指揮)
録音: May 1959, Philharmonic Hall, Warsaw, Poland
by kirakuossan
| 2020-03-20 12:19
| クラシック雑記帳
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