2019年 05月 24日
クラシック雑記帳 11 マーラーもブルックナー顔負けの改訂魔? |
2019年5月24日(金)
次に1896年のベルリン上演での稿がいわゆる第3稿とされる。ここで大きく変貌する。まずマーラーは「花の章」を削除して全4楽章の「交響曲」とし、副題を外し、楽器編成も四管に増強され、ホルンが4本から7本に増やされる。また第1楽章の序奏部分最初のファンファーレが第2稿はホルンで出るが第3稿はクラリネットと変り、のちに加えられたスケルツォ開始部のティンパニが第3稿では低弦のみとなるなど微調整も加わる。
マーラーの第1番交響曲は最も馴染みやすく好きなこともあって演奏会で、また自宅で頻繁に聴いてきた。しかし意外と知らなかった部分が多いのにも気づかされる。
今朝のNMLで新着配信されていた何かと話題性が多いフランソワ・クサヴィエ・ロトが指揮するマーラー交響曲第1番、しかもよくみると交響詩「巨人」 (ハンブルク1893-94、交響曲第1番のワイマール稿)と記されている。交響曲ではなく”交響詩”とある。ムム?今まで「花の章」が付くとか付かないとか、その程度でしかなかったが、もう少ししっかりと調べてみることにした。
第1番は1884年からとりかかり完成させたのは1888年、マーラー28歳である。初演は1889年11月に自らの指揮でブダペスト・フィルハーモニー交響楽団により行われた。このときは「2部からなる交響詩」として発表され、この初稿は「ブダペスト稿」と呼ばれるが現存しない。そこですぐさまわかるのは、以降まるでブルックナー顔負けの、改訂に改訂がくり返されていることだ。生前に6度、没後も2度。
初演の後、第2楽章「花の章」と第3楽章、第5楽章に改訂を施す。1893年には「花の章」を削除しようとするが、すぐに撤回、ハンブルクで上演する。そして翌年ワイマールでも再演、このときまでは管弦楽編成は三管編成であった。そしてこの上演でマーラー自らが「巨人」(Titan)という標題を与えることになる。そしてジャン・パウルの小説から影響を受けたとされる副題も付与される。第1部 青春の日々から、若さ、結実、苦悩のことなど
第1楽章 春、そして終わることなく
第2楽章 花の章
第3楽章 順風に帆を上げて
第2部 人間喜劇
第4楽章 座礁、カロ風の葬送行進曲
第5楽章 地獄から天国へ
ハンブルクとワイマールでの演奏の間に細かい修正が入れられているため区別されることもあるが、これらをまとめて第2稿とする。

その後もマーラーは演奏のたびに細かい修正を加えるが、マーラー没後、それらがまとめられたエルヴィン・ラッツ校訂によって1967年に刊行されたマーラー協会の「全集版」(ウニヴェルザール出版社)が世に出され、現在もっぱら演奏されるのがこのラッツ校訂版である。
整理してみると、①1889年ブダペスト初演稿②1893年ハンブルク上演稿③1894年ワイマール上演稿④1896年ベルリン上演稿⑤1899年ヴァインベルガー社出版譜⑥1906年ウニフェルザル社出版譜、さらにマーラー没後、ウニフェルザル社出版譜をもとに⑦1967年国際マーラー協会によるラッツ校訂版⑧1992年カール・ハインツ・フュッスル監修「新全集版」ということになる。
ということからロトの演奏である(ハンブルク1893-94、交響曲第1番のワイマール稿)は第2稿ということになるが、この演奏を聴いてみてやはり第2楽章「花の章」Blumine: Andanteの美しさは格別で、改めてマーラー1番は「花の章」付きに限るなあと思い直されるのである。
レ・シエクル - Siècles, Les
フランソワ・クサヴィエ・ロト - François-Xavier Roth (指揮)
録音: February, March and October 2018, Philharmonie de Paris, Théâtre de Nîmes and Cité de la Musique et de la Danse de Soissons, France
by kirakuossan
| 2019-05-24 06:33
| クラシック雑記帳
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