2018年 02月 14日
第九伝説 その4 マーラーの9番 |
2018年2月14日(水)
さらに1907年7月、マーラーは長女マリア・アンナを亡くし、自身も心臓病を悪化させるなどして悲嘆にくれる中、ウィーンを去ることを決意する。11月24日、楽友協会大ホールで自作交響曲第2番「復活」を指揮、ウィーン最後の演奏会のあと妻アルマとともに渡米する。
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 - Berlin Philharmonic Orchestra
ドイツ文学者で音楽評論家でもある猿田悳が面白いことを書いている。
マーラーの技法は変化にとぼしく類型的だといわれている。多彩な楽器を存分に用いて効果を狙いながら、実際に鳴りひびく音の美感はシュトラウスにおよばない。すくなくともあれほどに明快ではない。ところがわたしたちが思わず惹き寄せられるのは、ブラームスやブルックナーとちがったその混沌ととした世界へ向う悲劇的な姿勢だろう。マーラーにくらべたとき、ブラームスにはなんとしたり顔に市民生活にぬくぬくと棲息している息づかいが見られることだろう。ブルックナーはなんと素朴に田園の僧院のなかで敬虔な姿勢をくずさぬことだろう。
⁅第九伝説 その4⁆
第一期は感情豊かなロマン的心情が、みずからの才能の創り出す世界を〈予感〉していた時代。第二期は才能を実世界においても創造の世界でも存分に〈成熟〉させた時期、そして第三期は「いままでめったに彼の思想や観念のなかで現れてこなかった死の神秘が突然姿を見せてきた」となる。
ここで言う第一期とは第4番まで、第二期は第5番から第8番まで、そして第三期は「大地の歌」と第9番、第10番ということになるが、ちょうど存分に成熟を迎えた47歳のマーラーが第8番を書き終えて、突然、”死の神秘”が顔をもたげたのである。
その現われのひとつには、ベートーヴェンが交響曲第9番を完成させた後、交響曲第10番を完成することなく世を去ってしまったことに起因するということはよく引き合いに出されるところである。そしてまことしやかに、第8番と第9番の間に「大地の歌」を挟み、あえてその曲を交響曲と呼ばなかったとさえいわれる。
さらに1907年7月、マーラーは長女マリア・アンナを亡くし、自身も心臓病を悪化させるなどして悲嘆にくれる中、ウィーンを去ることを決意する。11月24日、楽友協会大ホールで自作交響曲第2番「復活」を指揮、ウィーン最後の演奏会のあと妻アルマとともに渡米する。
翌1908年夏、休暇先で「大地の歌」を作曲、3か月ほどで完成させる。その後、指揮活動に注力、9月にプラハでチェコ・フィルを振り、自作の第7番を初演、10月には初めてニューヨーク・フィルの指揮台に立ち、12月には「復活」を指揮する。
そして「大地の歌」から丸1年後の翌1908年夏、イタリアの休暇先アルト・シュルーダーバッハで交響曲第9番 ニ長調が作曲されることになる。
この曲は声楽を含まず、再び純然たる古典の交響曲形式で構成されているが、そもそも「大地の歌」と第9番は相関関係にある。「いまぼくは自分の人生の終わりになって、あらためて、どうして歩き、どうして立つかを学ばねばならないのだ」「ぼくはいまほど生を渇望し、〈生きるものの習性〉を美しいと思ったことなない」といった心境下にあって、その兆候はどちらの作品にも現れる。「大地の歌」の最終楽章が、〈告別〉と記されているし、第9番においても最終楽章の最後の小節にマーラーはersterbend(死に絶えるように)と書き込んでおり、全曲を通して〈死〉がテーマとなっていると考えられる。これらのことは決して偶然ではないのである。
静養のためベニスを訪れた老作曲家を主人公としたトーマス・マン原作の映画『ベニスに死す』で主人公が悶々として彷徨う姿を思い起こさせ、まさにマーラーの姿そのものなのだ。
しかし、本来交響曲である「大地の歌」に番号を与えず、次の第9番を作り、続いて第10番に着手したが、未完に終わり、結局「第九」のジンクスが成立するという皮肉な結果となってしまったのである。
十二音技法で知られるオーストリアの現代作曲家アルバン・ベルクが「第9交響曲の第一楽章がマーラーの手によって書かれた交響音楽の最高のものだ」と語っているが、はたしてそうだろうか。確かにこの9番は、十二音技法作曲家の目からしてこう写るのかもしれない。何度聴いても、難しくて、理解に苦しむ曲で、ぼくにとってはやはり第一期と、第二期の5番、それにせいぜい6、7番あたりまでしか残念ながら理解できないのである。
マーラー:交響曲第9番 ニ長調
☆この曲の演奏には二つのいわく付きの演奏が存在する。一つはバーンスタインが唯一ベルリン・フィルと共演した時に残したのがこの第9番であったし、また、ベルリン・フィルの団員達からこぞってリクエストされ指揮台に立ったバルビローリとの曲目もこのマーラーの第9番であった。
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 - Berlin Philharmonic Orchestra
by kirakuossan
| 2018-02-14 08:53
| クラシック
|
Trackback