2017年 08月 30日
『みなかみ紀行』を辿って その7 湯宿温泉・沼田「青地屋」 |
2017年8月30日(水)
水上温泉郷-みなかみ十八湯と呼ばれ、群馬県最北端に位置しするみなかみ町には多くの温泉が点在する。
十月廿三日。
夜、宿屋で歌会が開かれた。二三日前の夜訪ねて来た人たちを中心とした土地の文芸愛好家達で、歌会とは云っても専門に歌を作るという人々ではなかった。みな相当の年輩の人たちで、私は彼等から土地の話を面白く聞く事が出来た。そして思わず酒をも過して閉会したのは午前一時であった。法師で会ったK―君も夜更けて其処からやって来た。この人たちは九里や十里の山路を歩くのを、ホンの隣家に行く気でいるらしい。翌朝、大正11年10月25日朝、沼田の青池旅館の中庭にて記念撮影したものである。生方記念文庫所蔵のこの写真には左から、伝田愛吉・生方吉次・牛口善衛・真下年男・若山牧水・植村祐三・植村婉外・金子刀水とある。
散りすぎし紅葉の山にうちつけに向ふながめの寒けかりけり
「青池屋」は、「ホテル青地」となって、近代的ビジネスホテルに変身している。こじんまりしたホテルながら、どの部屋からも奥利根の山々が見渡せる高台に建つ。
上牧温泉:カルシウム・ナトリウム - 硫酸塩・塩化物泉
水上温泉:カルシウム - 硫酸塩泉
谷川温泉:単純温泉・硫酸塩泉
うのせ温泉:単純温泉
向山温泉:アルカリ性単純温泉
湯桧曽温泉:アルカリ性単純温泉
宝川温泉:単純温泉
上の原温泉:単純温泉
湯ノ小屋温泉:単純温泉
高原千葉村温泉:含硫黄・カルシウム・硫酸塩温泉
法師温泉:硫酸塩泉
猿ヶ京温泉:ナトリウム・カルシウム - 硫酸塩塩化物泉
川古温泉:カルシウム・ナトリウム - 硫酸塩泉
赤岩温泉:硫酸塩泉
湯宿温泉:ナトリウム・カルシウム - 硫酸塩泉
真沢温泉:アルカリ性単純温泉
奈女沢温泉:硫酸塩泉
月夜野温泉:アルカリ性単純温泉
ここは一番、温泉梯子ってなのもオモシロイ。
『みなかみ紀行』若山牧水
十月廿三日。
湯宿温泉
猿ヶ京村を出外れた道下の笹の湯温泉で昼食をとった。相迫った断崖の片側の中腹に在る一軒家で、その二階から斜め真上に相生橋が仰がれた。相生橋は群馬県で第二番目に高い橋だという事である。切り立った断崖の真中どころに鎹 の様にして架っている。高さ二十五間、欄干に倚って下を見ると胆の冷ゆる思いがした。しかもその両岸の崖にはとりどりの雑木が鮮かに紅葉しているのであった。
湯の宿温泉まで来ると私はひどく身体の疲労を感じた。数日の歩きづめとこの一二晩の睡眠不足とのためである。其処で二人の青年に別れて、日はまだ高かったが、一人だけ其処の宿屋に泊る事にした。もっともM―君は自分の村を行きすぎ其処まで見送って来てくれたのであった。U―君とは明日また沼田で逢う約束をした。
一人になると、一層疲労が出て来た。で、一浴後直ちに床を延べて寝てしまった。一時間も眠ったとおもう頃、女中が来てあなたは若山という人ではないかと訊く。不思議に思いながらそうだと答えると一枚の名刺を出して斯ういう人が逢い度いと下に来ているという。見ると驚いた、昨日その留守宅に寄って来たH―君であった。仙台からの帰途本屋に寄って私達が一泊の予定で法師に行った事を聞き、ともすると途中で会うかも知れぬと云われて途々気をつけて来た、そしてもう夕方ではあるし、ことによるとこの辺に泊って居らるるかも知れぬと立ち寄って訊いてみた宿屋に偶然にも私が寝ていたのだという。あまりの奇遇に我等は思わず知らずひしと両手を握り合った。
湯の宿温泉まで来ると私はひどく身体の疲労を感じた。数日の歩きづめとこの一二晩の睡眠不足とのためである。其処で二人の青年に別れて、日はまだ高かったが、一人だけ其処の宿屋に泊る事にした。もっともM―君は自分の村を行きすぎ其処まで見送って来てくれたのであった。U―君とは明日また沼田で逢う約束をした。
一人になると、一層疲労が出て来た。で、一浴後直ちに床を延べて寝てしまった。一時間も眠ったとおもう頃、女中が来てあなたは若山という人ではないかと訊く。不思議に思いながらそうだと答えると一枚の名刺を出して斯ういう人が逢い度いと下に来ているという。見ると驚いた、昨日その留守宅に寄って来たH―君であった。仙台からの帰途本屋に寄って私達が一泊の予定で法師に行った事を聞き、ともすると途中で会うかも知れぬと云われて途々気をつけて来た、そしてもう夕方ではあるし、ことによるとこの辺に泊って居らるるかも知れぬと立ち寄って訊いてみた宿屋に偶然にも私が寝ていたのだという。あまりの奇遇に我等は思わず知らずひしと両手を握り合った。
牧水は湯宿温泉「金田屋」に泊った。佐久を出て10日目である。新潟との県境の三国峠の手前、国道17号沿いに温泉街が広がる。共同浴場も3~4軒あるが、ここ「金田屋」でも日帰り入浴が可能だ。湯宿の湯はみなかみ十八湯のなかでも最も熱くて源泉は60℃を越す。湯治にも向く、そんな鄙びた温泉街である
そしてその翌日、約束通り沼田へ戻り、「青地屋」でU―君と会う。
ここでU―君が牛口善衛という青年で、また、法師温泉で、歌集『くろ土』を取り出してその口絵の肖像と私とを見比べながら、「矢張り本物に違いはありませんねエ」と云って驚くほど大きな声で笑ったK―君は、金子刀水ということを知る。
十月廿五日。
昨夜の会の人達が町はずれまで送って来て呉れた。U―、K―の両君だけはもう少し歩きましょうと更らに半道ほど送って来た。其処で別れかねてまた二里ほど歩いた。収穫時の忙しさを思って、農家であるU―君をば其処から強いて帰らせたが、K―君はいっそ此処まで来た事ゆえ老神おいがみまで参りましょうと、終に今夜の泊りの場所まで一緒に行く事になった。宿屋の下駄を穿き、帽子もかぶらぬままの姿でである。
「青池屋」は、「ホテル青地」となって、近代的ビジネスホテルに変身している。こじんまりしたホテルながら、どの部屋からも奥利根の山々が見渡せる高台に建つ。
つづく・・・
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by kirakuossan
| 2017-08-30 05:30
| 文芸
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