2012年 02月 18日
ふたつの舞曲集 |
2012年2月18日(土)
演奏会でよくアンコール曲として繰り返し演奏されるふたつの舞曲集がある。それは「ハンガリー舞曲集」と「スラヴ舞曲集」
「ハンガリー舞曲集」はハンガリーのロマ音楽に基づいて編曲した舞曲集。ロマ音楽とは西アジアやヨーロッパなどで移動生活を送るロマ民族(ジプシー)を中心に発達してきた音楽をさす。「スラヴ舞曲集」にはチェコ舞曲をはじめ、ポーランド、クロアチアなど中欧・東欧に居住するスラヴ民族によって継がれてきた伝統の音楽を題材にしている。
ヨハネス・ブラームス(1833-1897)の「ハンガリー舞曲集」
「ハンガリー舞曲集」は、もとは四手用のピアノ曲として書かれたもので全部で4集、21曲になる。
ブラームスは1850年代の前半にエドゥアルト・レメーニの伴奏者としてドイツの各地で演奏旅行を行い、その時にロマの民族音楽を教えられて魅了された。「ハンガリー舞曲集」に作品番号は付いていない。これは自作ではなく、伝統音楽の編曲にすぎないことを意味するが、実際は第11曲、第14曲、第16曲の主題は、完全にブラームスの創作である。後にレメーニはこの舞曲集を盗作であるとして、ブラームスを訴える。結果はブラームスが「作曲」ではなく「編曲」としておいたことが幸いして、ブラームスが勝利する。
ブラームスは「ハンガリー舞曲集」の成功に自信を得て、アントニン・ドヴォルザークに「スラヴ舞曲集」を作曲して収益を得るように助言している。ドヴォルザークの方は編曲ではなく、民族舞曲の性格と特徴を取り入れ、自作の主題によって曲集をまとめ上げたものである。
1867年以前~作曲
ハンガリー舞曲集 WoO
No. 1: Allegro molto (orch. J. Brahms)
No. 2: Allegro non assai (orch. F. Hidas)
No. 3: Allegretto (orch. J. Brahms)
No. 4: Poco sostenuto (orch. F. Hidas and I. Fischer)
No. 5: Allegro (orch. M. Schmeling)
No. 6: Vivace (orch. M. Schmeling)
No. 7: Allegretto (orch. M. Schmeling)
No. 8: Presto (orch. R. Schollum)
No. 9: Allegro non troppo (orch. R. Schollum)
No. 10: Presto (orch. J. Brahms)
No. 11: Poco andante (orch. A. Parlow and I. Fischer)
No. 12: Presto (orch. F. Hidas and I. Fischer)
No. 13: Andantino grazioso (A. Parlow and I. Fischer)
No. 14: Un poco andante (A. Parlow and I. Fischer)
No. 15: Allegretto grazioso (orch. F. Hidas)
No. 16: Con moto (orch. A. Parlow)
No. 17: Andantino (orch. F. Hidas and I. Fischer)
No. 18: Molto vivace (orch. F. Hidas)
No. 19: Allegretto (orch. A. Dvorak and I. Fischer)
No. 20: Poco allegretto (orch. A. Dvorak and I. Fischer)
No. 21: Vivace (orch. A. Dvorak and I. Fischer)
ブラームスは1873年に自身の指揮で演奏会で取り上げるため第1番、第3番、第10番を管弦楽用に編曲している。残りの18曲は、さまざまな音楽家が手懸けているが、ドヴォルザーク は第17番以降を編曲した。
1番:ト短調、舞曲集の最初を飾る軽快な曲。
2番:ニ短調、緩急を繰り返す旋律は印象的。
4番:ヘ短調、哀愁を帯びた主旋律が素敵で好きだ。
5番:嬰ヘ短調、最も知れ渡った曲。伸び伸びとして、どこか牧歌的に感じられて聴きやすい曲である。
6番:変ニ長調、比較的厳かで雄大な旋律を持つ、ブラームスの品の良さを感じさせる曲。
アントニン・ドヴォルザーク (1841-1904)のスラヴ舞曲集
出版社のジムロック社は、ブラームスの「ハンガリー舞曲集」の成功を受けて、ドヴォルザークにもこうした舞曲集の作曲を要望した。それに応えて作曲されたのが、8曲からなる「スラヴ舞曲集」(第1集)作品46。
最初にピアノ連弾曲集として出版され、すぐに管弦楽編曲に仕上げた。第1集ではボヘミアの代表的な舞曲であるフリアント、ソウセツカー、スコチナーなどが取り上げられていて、ドヴォルザークは民族舞曲のリズムや特徴を生かしながら彼独自の旋律も生み出している。
第1集の成功を受けて、ジムロック社は次なる舞曲集の作曲をドヴォルザークに要望したが、最初は乗り気ではなかった。これは他の大作を手がけていることと、前作をしのぐものを書くことは難しいと思っていたようだ。しかし、1886年6月に突如とした創作意欲が湧き、1ヶ月で8曲を仕上げた、それが「スラヴ舞曲集」第2集 作品72。第2集ではチェコの舞曲は少なく、他のスラヴ地域の舞曲を取り入れているのが特色。
どうだろう、人によって好みは違うだろうが、僕はやはり第1集のチェコ舞曲を主体とした方をとるが。
1878年作曲
スラヴ舞曲 Nos. 1-8 Op. 46
No. 1 in C major: Presto
No. 2 in E minor: Allegretto scherzando
No. 3 in A flat major: Poco allegro
No. 4 in F major: Tempo di minuetto
No. 5 in A major: Allegro vivace
No. 6 in D major: Allegretto scherzando
No. 7 in C minor: Allegro assai
No. 8 in G minor: Presto
1番:フリアント。ドヴォルザーク・スラヴ舞曲の代名詞のような曲。
2番:ロンド風のドゥムカの曲。ドゥムカはポーランドに起こりスラブ諸国に広まった民謡の一種で、ゆくりした悲哀を表わす部分と、テンポの速い情熱的な部分からなっている。むせび泣き、せり上がるようなメロディーの所が好きだ。
3番:2分の2拍子のロンド風、ポルカ風の曲。伸び伸びと愉しい曲。全集の中で一番好む。
8番:フリアント。第1集では最も多く演奏される曲だろう。フリアントはチェコ舞曲の一種で、変則的なリズムと急速なテンポが相俟って、力強く推進力が特徴。
1886~1887年作曲
スラヴ舞曲 Nos. 9-16 Op. 72
No. 9 in B major: Molto vivace
No. 10 in E minor: Allegretto grazioso
No. 11 in F major: Allegro
No. 12 in D flat major: Allegretto grazioso
No. 13 in B flat minor: Poco adagio - Vivace
No. 14 in B flat major: Moderato, quasi minuetto
No. 15 in C major: Allegro vivace
No. 16 in A flat major: Grazioso e lento, ma non troppo, quasi tempo di valse
10番:最も有名なドゥムカの舞曲。多くの演奏会のアンコールで良く耳にする。演奏時間は5分を越え比較的長い舞曲。
13番:全曲を通じて一番短い。すこしロシア音楽の趣を感じる。
15番:コロといってクロアチアの舞曲、冒頭から速いテンポで駆け巡る。
ブラームスとドヴォルザークのふたつの舞曲集を休日の朝から流して聴く。爽快な楽曲に導かれ、充実した一日を予感することができるから好きだ。
演奏会でよくアンコール曲として繰り返し演奏されるふたつの舞曲集がある。それは「ハンガリー舞曲集」と「スラヴ舞曲集」
「ハンガリー舞曲集」はハンガリーのロマ音楽に基づいて編曲した舞曲集。ロマ音楽とは西アジアやヨーロッパなどで移動生活を送るロマ民族(ジプシー)を中心に発達してきた音楽をさす。「スラヴ舞曲集」にはチェコ舞曲をはじめ、ポーランド、クロアチアなど中欧・東欧に居住するスラヴ民族によって継がれてきた伝統の音楽を題材にしている。
ヨハネス・ブラームス(1833-1897)の「ハンガリー舞曲集」
「ハンガリー舞曲集」は、もとは四手用のピアノ曲として書かれたもので全部で4集、21曲になる。
ブラームスは1850年代の前半にエドゥアルト・レメーニの伴奏者としてドイツの各地で演奏旅行を行い、その時にロマの民族音楽を教えられて魅了された。「ハンガリー舞曲集」に作品番号は付いていない。これは自作ではなく、伝統音楽の編曲にすぎないことを意味するが、実際は第11曲、第14曲、第16曲の主題は、完全にブラームスの創作である。後にレメーニはこの舞曲集を盗作であるとして、ブラームスを訴える。結果はブラームスが「作曲」ではなく「編曲」としておいたことが幸いして、ブラームスが勝利する。
ブラームスは「ハンガリー舞曲集」の成功に自信を得て、アントニン・ドヴォルザークに「スラヴ舞曲集」を作曲して収益を得るように助言している。ドヴォルザークの方は編曲ではなく、民族舞曲の性格と特徴を取り入れ、自作の主題によって曲集をまとめ上げたものである。
1867年以前~作曲
ハンガリー舞曲集 WoO
No. 1: Allegro molto (orch. J. Brahms)
No. 2: Allegro non assai (orch. F. Hidas)
No. 3: Allegretto (orch. J. Brahms)
No. 4: Poco sostenuto (orch. F. Hidas and I. Fischer)
No. 5: Allegro (orch. M. Schmeling)
No. 6: Vivace (orch. M. Schmeling)
No. 7: Allegretto (orch. M. Schmeling)
No. 8: Presto (orch. R. Schollum)
No. 9: Allegro non troppo (orch. R. Schollum)
No. 10: Presto (orch. J. Brahms)
No. 11: Poco andante (orch. A. Parlow and I. Fischer)
No. 12: Presto (orch. F. Hidas and I. Fischer)
No. 13: Andantino grazioso (A. Parlow and I. Fischer)
No. 14: Un poco andante (A. Parlow and I. Fischer)
No. 15: Allegretto grazioso (orch. F. Hidas)
No. 16: Con moto (orch. A. Parlow)
No. 17: Andantino (orch. F. Hidas and I. Fischer)
No. 18: Molto vivace (orch. F. Hidas)
No. 19: Allegretto (orch. A. Dvorak and I. Fischer)
No. 20: Poco allegretto (orch. A. Dvorak and I. Fischer)
No. 21: Vivace (orch. A. Dvorak and I. Fischer)
ブラームスは1873年に自身の指揮で演奏会で取り上げるため第1番、第3番、第10番を管弦楽用に編曲している。残りの18曲は、さまざまな音楽家が手懸けているが、ドヴォルザーク は第17番以降を編曲した。
1番:ト短調、舞曲集の最初を飾る軽快な曲。
2番:ニ短調、緩急を繰り返す旋律は印象的。
4番:ヘ短調、哀愁を帯びた主旋律が素敵で好きだ。
5番:嬰ヘ短調、最も知れ渡った曲。伸び伸びとして、どこか牧歌的に感じられて聴きやすい曲である。
6番:変ニ長調、比較的厳かで雄大な旋律を持つ、ブラームスの品の良さを感じさせる曲。
アントニン・ドヴォルザーク (1841-1904)のスラヴ舞曲集
出版社のジムロック社は、ブラームスの「ハンガリー舞曲集」の成功を受けて、ドヴォルザークにもこうした舞曲集の作曲を要望した。それに応えて作曲されたのが、8曲からなる「スラヴ舞曲集」(第1集)作品46。
最初にピアノ連弾曲集として出版され、すぐに管弦楽編曲に仕上げた。第1集ではボヘミアの代表的な舞曲であるフリアント、ソウセツカー、スコチナーなどが取り上げられていて、ドヴォルザークは民族舞曲のリズムや特徴を生かしながら彼独自の旋律も生み出している。
第1集の成功を受けて、ジムロック社は次なる舞曲集の作曲をドヴォルザークに要望したが、最初は乗り気ではなかった。これは他の大作を手がけていることと、前作をしのぐものを書くことは難しいと思っていたようだ。しかし、1886年6月に突如とした創作意欲が湧き、1ヶ月で8曲を仕上げた、それが「スラヴ舞曲集」第2集 作品72。第2集ではチェコの舞曲は少なく、他のスラヴ地域の舞曲を取り入れているのが特色。
どうだろう、人によって好みは違うだろうが、僕はやはり第1集のチェコ舞曲を主体とした方をとるが。
1878年作曲
スラヴ舞曲 Nos. 1-8 Op. 46
No. 1 in C major: Presto
No. 2 in E minor: Allegretto scherzando
No. 3 in A flat major: Poco allegro
No. 4 in F major: Tempo di minuetto
No. 5 in A major: Allegro vivace
No. 6 in D major: Allegretto scherzando
No. 7 in C minor: Allegro assai
No. 8 in G minor: Presto
1番:フリアント。ドヴォルザーク・スラヴ舞曲の代名詞のような曲。
2番:ロンド風のドゥムカの曲。ドゥムカはポーランドに起こりスラブ諸国に広まった民謡の一種で、ゆくりした悲哀を表わす部分と、テンポの速い情熱的な部分からなっている。むせび泣き、せり上がるようなメロディーの所が好きだ。
3番:2分の2拍子のロンド風、ポルカ風の曲。伸び伸びと愉しい曲。全集の中で一番好む。
8番:フリアント。第1集では最も多く演奏される曲だろう。フリアントはチェコ舞曲の一種で、変則的なリズムと急速なテンポが相俟って、力強く推進力が特徴。
1886~1887年作曲
スラヴ舞曲 Nos. 9-16 Op. 72
No. 9 in B major: Molto vivace
No. 10 in E minor: Allegretto grazioso
No. 11 in F major: Allegro
No. 12 in D flat major: Allegretto grazioso
No. 13 in B flat minor: Poco adagio - Vivace
No. 14 in B flat major: Moderato, quasi minuetto
No. 15 in C major: Allegro vivace
No. 16 in A flat major: Grazioso e lento, ma non troppo, quasi tempo di valse
10番:最も有名なドゥムカの舞曲。多くの演奏会のアンコールで良く耳にする。演奏時間は5分を越え比較的長い舞曲。
13番:全曲を通じて一番短い。すこしロシア音楽の趣を感じる。
15番:コロといってクロアチアの舞曲、冒頭から速いテンポで駆け巡る。
ブラームスとドヴォルザークのふたつの舞曲集を休日の朝から流して聴く。爽快な楽曲に導かれ、充実した一日を予感することができるから好きだ。
by kirakuossan
| 2012-02-18 09:43
| クラシック
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