2018年 02月 18日
「春の数えかた」 |
2018年2月18日(日)
冬の寒い間、母が山科にある施設でお世話になっているが、そこからの帰りに、いつもの古本屋に立ち寄り、おもしろいエッセイを見つけた。
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この冬(1999年)、彦根は雪が多かった。五〇センチ近く積もった日もあった。けれどすぐ隣の米原では、もっと雪が多い。そして米原からもう少し先へいくと、雪で有名な関ケ原だ。ここは一面にまっ白な雪という日が何日も続いた。
彦根の琵琶湖岸に立って見回すと、広い湖と遠くの山々が見える。その姿が季節によってちがうのは当然だが、年によってもさまざまに異なる。
今年は雪がよく降ったのに、伊吹山はそれほど白くはならなかった。ある年は、平地に雪はほとんど降らなかったのに、伊吹はすっかり雪におおわれ、少し大げさにいえばアルプスかヒマラヤをも思わせる立派な姿になった。そんな年のアルバムを見ると、雪の伊吹を撮った写真がやたらに多い。~
山や雪はこんなに年ごとに変るのに、花はほとんど変わらないし、虫たちも変らない。毎年、春になれば、花はちゃんと咲くし、虫たちも姿を現わす。当たり前といえば当たり前だが、やはり不思議な思いがする。~
日高敏隆(1930~2009)氏は日本における動物行動学分野の草分け的存在である。少年時代から昆虫採集に熱中する昆虫少年であった日高氏は、1952年に東京大学理学部動物学科を卒業後、岩波書店に勤務の傍ら、昆虫を研究材料とした生理学的研究から、動物行動学の要素を取り入れ研究を発展させていった。長らく京都大学の教授をつとめ、退官後、1995年、新たに設立された滋賀県立大学初代学長として赴任した。
こんなにくるくるかわる寒暖の波の中で、生きものたちはどうやって春の到来を知るのだろう。~
日本に棲む多くの虫では、発育限界温度はだいたい摂氏五度から十度の間にある。そこで虫たちは、こんな「計算」をしている。わかりやすく、この虫の発育限界温度を五度としよう。気温が五度以下の日は、何日あっても計算には加えない。冬のさ中でも、たまたま暖かくて、七度という日があったとしよう。すると、七度から発育限界温度である五度を差し引いた二度が有効温度となる。この二度掛ける一日(二度×一日)がこの虫の発育にとっての有効温量である。
それからニ、三日間は五度以下の日がつづき、その後、六度の日が三日あったとしよう。この分は「六引く五」度掛ける三、つまり、一度×三日イコール三日度と積算される。前の二度×一イコール二日度と合わせると、この間の有効温量の「稼ぎ」は五日度となる。三月にもなって気温がずっと上り、九度、十度という日がつづくと、それぞれから五度を引いた四度、五度という有効温度がその日数分だけ積算されていって、有効温量の稼ぎはめきめきと増加していく。このようになると、人々の目には、「梅一輪、一輪ほどの暖かさ」と映るのである。
(エッセイ「春の数えかた」より)
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by kirakuossan
| 2018-02-18 16:15
| 文芸
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