2016年 11月 27日
ヘブラー、40歳と60歳での演奏の違い |
2016年11月27日(日)
イングリット・ヘブラーのモーツァルトのピアノソナタをレコードとCDで聴き比べる。
と、いっても今日は音質の違いを云々するのではない。同じ曲を同じピアニストで聴き比べようと思う。レコードは1960年代半ば、CDの方は1980年代半ば、前者は40歳になったばかり、後者は還暦を迎えたころの演奏である。ちょうどこの20年で音楽はどう変わったか、興味のあるところである。しかもうまい具合に、同曲が3曲も並んでいる。ピアノ・ソナタ第11番イ長調K331、第15番ハ長調K545、第8番イ短調K310の3曲である。
ここでは第11番K331で比較してみたい。例の「トルコ行進曲付」の有名なピアノソナタだ。このソナタは全曲25分近くを要する大曲である。
第1楽章だけで他のソナタの全曲に相当するぐらいの長さをもち、子守唄風の主題と6つの変奏から構成されている。第2楽章はトリオをもつ大きなメヌエットであるが、もともとモーツァルトはメヌエットを多用したが、ピアノソナタではこれが唯一である。そして有名な軽快なトルコマーチ、左手低音で独特のリズムを奏でる。それはロンド形式で工夫され、短いが輝かしい印象に残るメロディーである。
まず全体の演奏時間であるが、これが面白いことにどちらも24分32秒である。とくにトルコ行進曲がでてくる第3楽章はどちらも3分30秒と測ったようにピッタリと同じ。違うのは第1楽章でレコードは14分37秒なのに対してCDでは14分31秒、その分、第2楽章ではレコードが逆に6秒速く6分25秒なのに対し、CDは6分31秒をかけている。それで全曲通してピタリと同じというあんばい。
もう少し詳しく見ていくと、演奏形態のこの20年の違いが見えてきそうである。
第1楽章は第1変奏は休止符を多用した面白いリズム、第2変奏は三連音符の伴奏で美しい旋律が弾かれ、第3変奏でイ短調に変わり、第4変奏でイ長調に戻る。一転、第5変奏はこまやかな表情のアダージョ、そして第6変奏の軽快なアレグロは最後にコーダで閉める。
ここの第1楽章にその違いが最も凝縮されて見える。全体的にはレコード(若い時)の方が、ゆったりと謳わせ、逆にCD(還暦)の方が、てきぱきと処理した印象を抱かせる。とくに顕著なのは、第1と2変奏でレコードが5分8秒も要しているのに、CDの方は4分48秒と20秒も短い。レコードの方は、愛らしく、丁寧に仕上げた感じに対し、CDの方は、音の強弱にメリハリをつけ、幾分タッチを刻むような鮮明な音色で弾き切る。この出足だけでも大きなずいぶん違う印象を受ける。前者が一音一音愛おしむようなヘブラーの色調をより帯びているように感じられる。逆に続くイ短調、イ長調への変化のところはレコードの方は6秒短く切り上げ、さらっと流しているが、CDは短調と長調の対照の妙を目立たせるような表現で、かなり仔細に提示される。もっとも長い第5変奏でも晩年の演奏の方が、より細やかさを浮き彫りにしたような演奏なのに対してレコードの方はそこまでの感情移入はなく、あくまでも指の動きにまかせて淡々と弾きつづけるイメージである。第6変奏のアレグロはどちらも愛らしい、まるでヘブラーが笑みを浮かべながら弾いているような姿が想像できる。
第2楽章に入ると、ここではそんな差異は感じられないが、CDの方がより彫の深さを強調するように聴こえる。トルコ行進曲ではピアノタッチそのものの強さの違いなのか、レコードとCDの音質の違いなのかよくわからないが、レコードの方がより柔らかなタッチに聴こえる。
イングリット・ヘブラーのモーツァルト演奏の最大の魅力は彼女の愛おしむような、一音一音を大切にするのと同時に、一見それとは相反するような、ごく自然に、ありのままにさりげに奏でるその優しい音色にある。そういったイメージからすれば、40歳代の、昔のピアノの方がよりそのイメージに近いような気がした。
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と、いっても今日は音質の違いを云々するのではない。同じ曲を同じピアニストで聴き比べようと思う。レコードは1960年代半ば、CDの方は1980年代半ば、前者は40歳になったばかり、後者は還暦を迎えたころの演奏である。ちょうどこの20年で音楽はどう変わったか、興味のあるところである。しかもうまい具合に、同曲が3曲も並んでいる。ピアノ・ソナタ第11番イ長調K331、第15番ハ長調K545、第8番イ短調K310の3曲である。
ここでは第11番K331で比較してみたい。例の「トルコ行進曲付」の有名なピアノソナタだ。このソナタは全曲25分近くを要する大曲である。
第1楽章だけで他のソナタの全曲に相当するぐらいの長さをもち、子守唄風の主題と6つの変奏から構成されている。第2楽章はトリオをもつ大きなメヌエットであるが、もともとモーツァルトはメヌエットを多用したが、ピアノソナタではこれが唯一である。そして有名な軽快なトルコマーチ、左手低音で独特のリズムを奏でる。それはロンド形式で工夫され、短いが輝かしい印象に残るメロディーである。
まず全体の演奏時間であるが、これが面白いことにどちらも24分32秒である。とくにトルコ行進曲がでてくる第3楽章はどちらも3分30秒と測ったようにピッタリと同じ。違うのは第1楽章でレコードは14分37秒なのに対してCDでは14分31秒、その分、第2楽章ではレコードが逆に6秒速く6分25秒なのに対し、CDは6分31秒をかけている。それで全曲通してピタリと同じというあんばい。
もう少し詳しく見ていくと、演奏形態のこの20年の違いが見えてきそうである。
第1楽章は第1変奏は休止符を多用した面白いリズム、第2変奏は三連音符の伴奏で美しい旋律が弾かれ、第3変奏でイ短調に変わり、第4変奏でイ長調に戻る。一転、第5変奏はこまやかな表情のアダージョ、そして第6変奏の軽快なアレグロは最後にコーダで閉める。
ここの第1楽章にその違いが最も凝縮されて見える。全体的にはレコード(若い時)の方が、ゆったりと謳わせ、逆にCD(還暦)の方が、てきぱきと処理した印象を抱かせる。とくに顕著なのは、第1と2変奏でレコードが5分8秒も要しているのに、CDの方は4分48秒と20秒も短い。レコードの方は、愛らしく、丁寧に仕上げた感じに対し、CDの方は、音の強弱にメリハリをつけ、幾分タッチを刻むような鮮明な音色で弾き切る。この出足だけでも大きなずいぶん違う印象を受ける。前者が一音一音愛おしむようなヘブラーの色調をより帯びているように感じられる。逆に続くイ短調、イ長調への変化のところはレコードの方は6秒短く切り上げ、さらっと流しているが、CDは短調と長調の対照の妙を目立たせるような表現で、かなり仔細に提示される。もっとも長い第5変奏でも晩年の演奏の方が、より細やかさを浮き彫りにしたような演奏なのに対してレコードの方はそこまでの感情移入はなく、あくまでも指の動きにまかせて淡々と弾きつづけるイメージである。第6変奏のアレグロはどちらも愛らしい、まるでヘブラーが笑みを浮かべながら弾いているような姿が想像できる。
第2楽章に入ると、ここではそんな差異は感じられないが、CDの方がより彫の深さを強調するように聴こえる。トルコ行進曲ではピアノタッチそのものの強さの違いなのか、レコードとCDの音質の違いなのかよくわからないが、レコードの方がより柔らかなタッチに聴こえる。
イングリット・ヘブラーのモーツァルト演奏の最大の魅力は彼女の愛おしむような、一音一音を大切にするのと同時に、一見それとは相反するような、ごく自然に、ありのままにさりげに奏でるその優しい音色にある。そういったイメージからすれば、40歳代の、昔のピアノの方がよりそのイメージに近いような気がした。
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by kirakuossan
| 2016-11-27 10:18
| クラシック
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