2016年 10月 17日
「父への告白」 |
2016年10月17日(月)
小説家でもある母、津村節子は息子に語った。「おとうさんは、武蔵を書くのをとても嫌がっていた」、そして「人間を書くのが小説で軍艦など書けないと断った」ということを。
文藝春秋の最新号で息子の吉村司氏が「父への告白」というエッセイを掲載している。短文だが、小説「戦艦武蔵」を通して父への思い、愛情が自然とにじみ出るようで好感を持つ。
私は父の純文学に心酔していて、特に「少女架刑」の死体を”一人称”にした視点の光景描写は文藝の頂点だと思っていたから、実在した軍艦を書いて何が小説なのだ、と学生だった私は抗議したのである。本来の父に戻って欲しい、「戦艦武蔵」は創作ではないと言った。
父は視線を落とし酒を口に含んでいた。父は編集者の方々に認められるよりも息子、娘に褒められるのが一番嬉しい。自分の渾身の作を息子が理解しない。さぞかし父は落胆したと思うのだ。だが小説「戦艦武蔵」は父が何度も断った末に書かれたものだったとは。
今、私が読み返す父の作品は圧倒的に純文学より記録文学の方が多い。吉村昭の筆力にかかると史実は生き生きと蘇り、どんな歴史書より歴史を伝えてくる。小説家・吉村昭がなせるものだと今は思っている。
私は休暇を利用してよく越後湯沢に行く。この週末も行く事になった。湯沢に行っても墓があることを時々忘れてしまう私だったが、今回は墓に行く。「戦艦武蔵」はこれからも私が読み重ねていく名作であり、そして母から知らされた新事実に驚いた事をしっかり墓前で言うつもりだ。
吉村昭(1927~2006)は歴史小説の大家として、司馬遼太郎としばしば並び称される。だが、その作風は壮大なドラマ性と魅力的な人物造形を重視した司馬とは対照的で、微に入り細をうがつ徹底的な史実の追求で知られる。近代日本戦史を題材とした「戦記文学」というジャンルを確立したのは吉村であるとも言われる。没後も著作の売れゆきは衰えず、来春には東京に文学館が完成するなど、さまざまな動きが相次いでいる。東日本大震災の直後、1984年に書いた「三陸海岸大津波」がそれを予見していたと、当時話題になったことをいま思い出す。そしてぜひ吉村昭の作品を読んでみようという思いに駆られた。
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小説家でもある母、津村節子は息子に語った。「おとうさんは、武蔵を書くのをとても嫌がっていた」、そして「人間を書くのが小説で軍艦など書けないと断った」ということを。
文藝春秋の最新号で息子の吉村司氏が「父への告白」というエッセイを掲載している。短文だが、小説「戦艦武蔵」を通して父への思い、愛情が自然とにじみ出るようで好感を持つ。
私は父の純文学に心酔していて、特に「少女架刑」の死体を”一人称”にした視点の光景描写は文藝の頂点だと思っていたから、実在した軍艦を書いて何が小説なのだ、と学生だった私は抗議したのである。本来の父に戻って欲しい、「戦艦武蔵」は創作ではないと言った。
父は視線を落とし酒を口に含んでいた。父は編集者の方々に認められるよりも息子、娘に褒められるのが一番嬉しい。自分の渾身の作を息子が理解しない。さぞかし父は落胆したと思うのだ。だが小説「戦艦武蔵」は父が何度も断った末に書かれたものだったとは。
今、私が読み返す父の作品は圧倒的に純文学より記録文学の方が多い。吉村昭の筆力にかかると史実は生き生きと蘇り、どんな歴史書より歴史を伝えてくる。小説家・吉村昭がなせるものだと今は思っている。
私は休暇を利用してよく越後湯沢に行く。この週末も行く事になった。湯沢に行っても墓があることを時々忘れてしまう私だったが、今回は墓に行く。「戦艦武蔵」はこれからも私が読み重ねていく名作であり、そして母から知らされた新事実に驚いた事をしっかり墓前で言うつもりだ。
吉村昭(1927~2006)は歴史小説の大家として、司馬遼太郎としばしば並び称される。だが、その作風は壮大なドラマ性と魅力的な人物造形を重視した司馬とは対照的で、微に入り細をうがつ徹底的な史実の追求で知られる。近代日本戦史を題材とした「戦記文学」というジャンルを確立したのは吉村であるとも言われる。没後も著作の売れゆきは衰えず、来春には東京に文学館が完成するなど、さまざまな動きが相次いでいる。東日本大震災の直後、1984年に書いた「三陸海岸大津波」がそれを予見していたと、当時話題になったことをいま思い出す。そしてぜひ吉村昭の作品を読んでみようという思いに駆られた。
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by kirakuossan
| 2016-10-17 08:11
| 文芸
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Trackback(1)
Tracked
from じゅうのblog
at 2019-08-09 21:47
タイトル : 『新装版 逃亡』 吉村昭
「吉村昭」の長編小説『新装版 逃亡』を読みました。 [新装版 逃亡] この季節になると第二次世界大戦に関連する作品を読まなきゃな… という気持ちになるんですよね、、、 「吉村昭」作品は、昨年10月に読んだ『漂流』以来ですね。 -----story------------- 戦争に圧しつぶされた人間の苦悩を描いた傑作 軍用飛行機をバラせ……戦時下の緊迫した海軍航空隊で、若き整備兵が背負った過酷な運命とは? 初期の力作長篇が待望の再登場 解説・「杉山隆男」 ------------------...... more
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