2015年 11月 07日
鎌倉文学散歩 ❺ |
2015年11月7日(土)
岸本が泊まっているところは円覚寺境内の古い禅寺で、苔の生えた石段を登りつめたところに門を構えたような位置にある。住職は親切な人だし、門前の飯屋とも懇意ではあるし、以前からの関係で岸本はまたこの寺に置いてもらうことにした。
本堂の側にある明るい部屋は岸本が起きたり臥したりして居る所で、長い廊下伝いに、蔵裏の方へ通うように成って居る。鳥の声より外に境内の寂賨を破るものがなかった。
円覚寺といえば、島崎藤村も参禅した。自伝小説『春』で、主人公岸本捨吉の行きつけであった円覚寺門前の飯屋の勘定を済ませ、亭主に旅立ちの挨拶をする場面がある。
亭主は黄ばんだ大きな手を揉んで、酷く別離を惜しむように見えた。昼食には赤の御飯の炊いたのがあると言われて、有合の惣菜に豆腐汁で、旅で暮らす商人などと一緒に、岸本は二十二歳の天長節を祝った。
藤村という人物は僕にとっては実に不思議な存在で、私事で恐縮だが、彼が出没する所にはいつも私に関係の深い土地がある。生まれ故郷が信州であり、若い教師時代に住み着いた小諸であり、さらに若い時、失恋の傷を癒すために関西方面に旅に出るが、その時しばらくとどまったのがここアトリエ近くの石山寺密蔵院であったり、さらには娘の住む大磯、そこの孫娘が通う小学校の近くに藤村の最後の住まいが残っていたり、そしてまた久々に来週にでも訪れようとしている鎌倉の五山にも名が出てくる・・・それほど縁があるのに、小説はどれも長すぎて無事に読み終えたものはない。
円覚寺前に、ほんとに飯屋があるかしら?
つづく・・・
岸本が泊まっているところは円覚寺境内の古い禅寺で、苔の生えた石段を登りつめたところに門を構えたような位置にある。住職は親切な人だし、門前の飯屋とも懇意ではあるし、以前からの関係で岸本はまたこの寺に置いてもらうことにした。
本堂の側にある明るい部屋は岸本が起きたり臥したりして居る所で、長い廊下伝いに、蔵裏の方へ通うように成って居る。鳥の声より外に境内の寂賨を破るものがなかった。
円覚寺といえば、島崎藤村も参禅した。自伝小説『春』で、主人公岸本捨吉の行きつけであった円覚寺門前の飯屋の勘定を済ませ、亭主に旅立ちの挨拶をする場面がある。
亭主は黄ばんだ大きな手を揉んで、酷く別離を惜しむように見えた。昼食には赤の御飯の炊いたのがあると言われて、有合の惣菜に豆腐汁で、旅で暮らす商人などと一緒に、岸本は二十二歳の天長節を祝った。
藤村という人物は僕にとっては実に不思議な存在で、私事で恐縮だが、彼が出没する所にはいつも私に関係の深い土地がある。生まれ故郷が信州であり、若い教師時代に住み着いた小諸であり、さらに若い時、失恋の傷を癒すために関西方面に旅に出るが、その時しばらくとどまったのがここアトリエ近くの石山寺密蔵院であったり、さらには娘の住む大磯、そこの孫娘が通う小学校の近くに藤村の最後の住まいが残っていたり、そしてまた久々に来週にでも訪れようとしている鎌倉の五山にも名が出てくる・・・それほど縁があるのに、小説はどれも長すぎて無事に読み終えたものはない。
円覚寺前に、ほんとに飯屋があるかしら?
つづく・・・
by kirakuossan
| 2015-11-07 10:23
| 文芸
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