2015年 04月 10日
チェコ・フィルハーモニーのホルン |
2015年4月10日(金)
交響曲などのオーケストラ音楽を聴くにあたって、曲目を選ぶのはもちろんのことだが、それがどこのオーケストラの演奏で、指揮者は誰が振っているのか...となるわけだが、もう一つ大切なことは、”いつ頃の演奏か?”ということが大変重要なポイントとなる。それは単にステレオかモノ録音か、ということだけでなく、その時々の各パートの首席奏者を念頭に入れて聴くとさらに音楽の理解が深まるものである。
ここ二日、ひょんなことから手に取ったマタチッチ指揮のチェコ・フィルハーモニー管弦楽団の「エロイカ」交響曲を繰り返し聴いている。昨日のゴルフ場への往復の車中でも聴いたが、この盤はチェコの老舗レーベルSUPRAHONで、録音時期は1959年とある。ステレオ初期の収録であるが、音の分離、解像度、伸びやかさ、響き具合、それでいて自然な音楽の暖かみを失わず、と最良の録音に気づく。車中のマッキントッシュで聴くのは、アトリエの装置で聴くのとはまた違った味わいもある。
「エロイカ」交響曲を聴いて、あらためて感動したのは第三楽章の例のホルンの颯爽たる響きが堪能できる箇所だ。中間部であるトリオでのホルン三重奏が聴きどころで、特に第2ホルンはストップ奏法を多用する。つまり、音の種類を増やす工夫として、右手をアサガオ内に入れて音を調節する奏法であるが、音高変化とともに音色が曇ったような心地よい響きが出る。
難度は高く、緊張感のある音ともなるので、トリオのコーダでは大きな効果が得られる。このことはベートーヴェン自身がホルンの特色を熟知して作曲した一例でもあるが、音色が均質な現代のヴァルヴホルンでは逆にこういった効果は得がたく、最近では耳にすることがなくなってきている。ここでのチェコ・フィルでのホルンは、実に牧歌風の、人の心の暖かみまでが聴くものに伝わってくるホルンなのである。うまく表現できないが、とにかく惚れ惚れし、うっとりとするような素晴らしいホルンなのである。ヴィブラートのかかった独特のホルンはチェコ・フィルの伝統として受け継がれていて、その巧みな演奏は常に安定した音量と柔らかさをもって聴かせてくれる。
これは憶測であるが、間違いないと思う。ここでの演奏の首席ホルン奏者はミロスラフ・シュテフェック(1916~1969)に違いない。彼は、チェコフィルの伝説的ホルン奏者で、ターリッヒ、アンチェル、クーベリックらの絶対的信頼を勝ち得ていた。26歳で入団以来、亡くなる1969年まで、首席ホルン奏者として活躍した。とくにアンチェル時代の黄金期を支えたひとりで、その音楽性は群を抜き、圧倒的なものであったとされ、シュテフェック無くして今日のチェコフィルのホルンは語れない。そして彼のホルンの響きの華麗さは、後継のズデニェク・ティルシャルよりもより豊かな響きがある、といわれる。
そのズデニェク・ティルシャル(1945~2006)も、1964年、弱冠19歳でアンチェルに招かれチェコフィルに入団した。そして68年ころからシュテフェックのあとを引き継いだ。当時の首席指揮者ノイマンをはじめとする多くの指揮者の信頼は厚かった。彼はまたソリストとしての活躍も多く、兄のベドジヒ・ティルシャルと共に録音した2本のホルン協奏曲の演奏なども残っている。
50年代~60年代まではシュテフェックが、60年代後半から70代~長きにわたってはティルシャルが、首席奏者として活躍し、当時の盤からその美技が聴けるのである。いずれにしてもこの二人のホルン奏者がチェコ・フィルのホルンのすべてである。
それにしてもこのマタチッチ指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団のコンビによる演奏は秀抜の出来栄えである。「エロイカ」交響曲に続いて、マイライブラリーを物色してみると、ブルックナーの第7番と第5番が出てきた。
7番は1967年3月、5番は1970年11月の演奏である。前者はシュテフェック、後者は間違いなくティルシャルになってからの時代のものである。第7番第一楽章の終わりの部分や、
第二楽章の弱音での終結部、最終楽章の最後のホルン・・・などをよくよく聴いていると、ティルシャルの方が最近で、期間も長かったせいでよく知られるが、先輩シュテフェックの方が、ティルシャルよりもより豊かな響きがある、といわれるのも確かに分かるような気がする。そしてマタチッチの緊迫感を備えた傑出のタクトさばき、オーケストラをここまで響き渡らせる力量は相当のものであることもあらためて感じるのである。
さらに当時の良き時代のチェコ・フィルの演奏を知るために、ここではNMLより、ジョージ・セルが指揮した1962年のドヴォルザークを挙げる。
ドヴォルザーク:
交響曲第8番 ト長調 Op. 88, B. 163
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
ジョージ・セル(指揮)
録音: 1962, Liver recording, Lucerne, Switzerland
当時の良き時代のチェコ・フィルハーモニー管弦楽団 The Czech Philharmonic during the 1950s: the Prague Spring Festival ...
交響曲などのオーケストラ音楽を聴くにあたって、曲目を選ぶのはもちろんのことだが、それがどこのオーケストラの演奏で、指揮者は誰が振っているのか...となるわけだが、もう一つ大切なことは、”いつ頃の演奏か?”ということが大変重要なポイントとなる。それは単にステレオかモノ録音か、ということだけでなく、その時々の各パートの首席奏者を念頭に入れて聴くとさらに音楽の理解が深まるものである。
ここ二日、ひょんなことから手に取ったマタチッチ指揮のチェコ・フィルハーモニー管弦楽団の「エロイカ」交響曲を繰り返し聴いている。昨日のゴルフ場への往復の車中でも聴いたが、この盤はチェコの老舗レーベルSUPRAHONで、録音時期は1959年とある。ステレオ初期の収録であるが、音の分離、解像度、伸びやかさ、響き具合、それでいて自然な音楽の暖かみを失わず、と最良の録音に気づく。車中のマッキントッシュで聴くのは、アトリエの装置で聴くのとはまた違った味わいもある。
「エロイカ」交響曲を聴いて、あらためて感動したのは第三楽章の例のホルンの颯爽たる響きが堪能できる箇所だ。中間部であるトリオでのホルン三重奏が聴きどころで、特に第2ホルンはストップ奏法を多用する。つまり、音の種類を増やす工夫として、右手をアサガオ内に入れて音を調節する奏法であるが、音高変化とともに音色が曇ったような心地よい響きが出る。
難度は高く、緊張感のある音ともなるので、トリオのコーダでは大きな効果が得られる。このことはベートーヴェン自身がホルンの特色を熟知して作曲した一例でもあるが、音色が均質な現代のヴァルヴホルンでは逆にこういった効果は得がたく、最近では耳にすることがなくなってきている。ここでのチェコ・フィルでのホルンは、実に牧歌風の、人の心の暖かみまでが聴くものに伝わってくるホルンなのである。うまく表現できないが、とにかく惚れ惚れし、うっとりとするような素晴らしいホルンなのである。ヴィブラートのかかった独特のホルンはチェコ・フィルの伝統として受け継がれていて、その巧みな演奏は常に安定した音量と柔らかさをもって聴かせてくれる。
これは憶測であるが、間違いないと思う。ここでの演奏の首席ホルン奏者はミロスラフ・シュテフェック(1916~1969)に違いない。彼は、チェコフィルの伝説的ホルン奏者で、ターリッヒ、アンチェル、クーベリックらの絶対的信頼を勝ち得ていた。26歳で入団以来、亡くなる1969年まで、首席ホルン奏者として活躍した。とくにアンチェル時代の黄金期を支えたひとりで、その音楽性は群を抜き、圧倒的なものであったとされ、シュテフェック無くして今日のチェコフィルのホルンは語れない。そして彼のホルンの響きの華麗さは、後継のズデニェク・ティルシャルよりもより豊かな響きがある、といわれる。
そのズデニェク・ティルシャル(1945~2006)も、1964年、弱冠19歳でアンチェルに招かれチェコフィルに入団した。そして68年ころからシュテフェックのあとを引き継いだ。当時の首席指揮者ノイマンをはじめとする多くの指揮者の信頼は厚かった。彼はまたソリストとしての活躍も多く、兄のベドジヒ・ティルシャルと共に録音した2本のホルン協奏曲の演奏なども残っている。
50年代~60年代まではシュテフェックが、60年代後半から70代~長きにわたってはティルシャルが、首席奏者として活躍し、当時の盤からその美技が聴けるのである。いずれにしてもこの二人のホルン奏者がチェコ・フィルのホルンのすべてである。
それにしてもこのマタチッチ指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団のコンビによる演奏は秀抜の出来栄えである。「エロイカ」交響曲に続いて、マイライブラリーを物色してみると、ブルックナーの第7番と第5番が出てきた。
7番は1967年3月、5番は1970年11月の演奏である。前者はシュテフェック、後者は間違いなくティルシャルになってからの時代のものである。第7番第一楽章の終わりの部分や、
第二楽章の弱音での終結部、最終楽章の最後のホルン・・・などをよくよく聴いていると、ティルシャルの方が最近で、期間も長かったせいでよく知られるが、先輩シュテフェックの方が、ティルシャルよりもより豊かな響きがある、といわれるのも確かに分かるような気がする。そしてマタチッチの緊迫感を備えた傑出のタクトさばき、オーケストラをここまで響き渡らせる力量は相当のものであることもあらためて感じるのである。
さらに当時の良き時代のチェコ・フィルの演奏を知るために、ここではNMLより、ジョージ・セルが指揮した1962年のドヴォルザークを挙げる。
ドヴォルザーク:
交響曲第8番 ト長調 Op. 88, B. 163
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
ジョージ・セル(指揮)
録音: 1962, Liver recording, Lucerne, Switzerland
当時の良き時代のチェコ・フィルハーモニー管弦楽団
by kirakuossan
| 2015-04-10 07:09
| クラシック
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