2013年 11月 14日
指揮者100選☆47 ストコフスキー |
2013年11月14日(木)
トスカニーニと犬猿の仲にもうひとり、ストコフスキーがいた。クレンペラーが変人なら、ストコフスキーは奇人というイメージがあった。それは誰が云ったのか、そのように吹聴されていて、クレンペラーはともかくも、ストコフスキーにはそんな印象が勝手につきまとっていた。その一つの原因が、小生が買った3枚目のレコードがストコフスキー指揮ニューヨーク・スタジアム交響楽団のショスタコヴィッチの「革命」にある。
古典派もロマン派もまだまだ分らない時期に、何を思ったか、ショスタコヴィッチの5番、当時の自分としてはわからないままに、ただ第一楽章の冒頭部分と、最終楽章のあの華やかな Allegro non troppo を繰り返し聴き、酔いしれた。その音楽は全く異質のもので、オーケストレーションがとにかくかっこよかった。しかし楽曲そのものは、奇異に映った。
でもその後は、偏見を持ち、ほかの彼が指揮したものは一切聴かなかった。その音楽は、こけおどし的で純粋に観賞するに値しないと思っていた。それもつい最近までそう思っていた。
ところが NML でベートヴェンの第7番を聴いて、愕然とした。これほどの真っ当なベートーヴェンであったとは。7番は、全曲を通してリズムが支配的であり、快い速度で全曲を駆け抜けていく曲であるが、そもそも40分足らずの曲である。最近でこそ繰り返し部分を省いて演奏するものが増え、それでも35分程度だが、このストコフスキーは32分35秒の短さだ。それも拍手音が25秒含んでいてそうである。あの速いトスカニーニでさえも、同じBBC交響楽団を振って、34分28秒を要している。でもストコフスキーのそれは速さをそう感じさせない。第三楽章こそかなりの早さだが、あとはごく自然に流れ、そのスピードが曲全体においてバランスよく、軽快に走り去るような、実に心地よい音楽なのである。
ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 Op. 92
BBC交響楽団/レオポルド・ストコフスキー(指揮)
録音: 23 July 1963, Promenade Concerts, Royal Albert Hall, London
レオポルド・ストコフスキー(Leopold Stokowski, イギリス 1882~1977)は、20世紀における個性的な指揮者の一人で、主にアメリカで活動した。
「革命」の古いレコード裏面に時の名評論家志島栄八郎の解説がある。的確な文章なので全文掲載する。
レオポルド・ストコフスキーは老いを知らない、まるで逆に年をとっているのではないかと思われるほど、いつまでも若さを失わない指揮者である。あのみごとな銀髪、ギリシャ彫刻を思わせるような、彫りの深い芸術的な顔。指揮棒をすて、しなやかな10本の指からつくりだされる表情豊かな音楽。かれは言葉では表現できないふしぎな魅力をもった指揮者である。1882年、ポーランド人を父に、イギリス人を母としてロンドンに生れたかれは、オルガニストとして音楽の第一歩を踏みだした。1905年アメリカに渡り教会でオルガンをひいていたが、1908年シンシナティ交響楽団の常任指揮者に就任。ごく短期間のうちにその実力を相当な高みにまで引き上げた。そしてその腕が買われ、1913年、弱冠31才でフィラデルフィア管弦楽団の常任に迎えられた。それから24年間、このオーケストラを世界一流に仕立てたのである。その後、ニューヨーク・フィルハーモニック交響楽団、ヒューストン交響楽団の指揮者をつとめ、現在はみずから設立したアメリカ交響楽団の常任として、その育成に心血をそそいでいる。
1965年の7月に来日したさい、幸いにしてわたしはかれと会う機会を得たが、その音楽にたいする情熱とスケールの大きさには驚かされた。それはまったく「怪物」という印象であった。
今思うに、この「怪物」が変じて、「奇人」になったのでは、と思ったりもする。フィラデルフィア管弦楽団といえばオーマンディのイメージが焼きついているが、その前に24年間も君臨していたとは凄いの一言。それに、最近では指揮棒を持たない指揮者が増えたが、そのはしりのひとりはストコフスキーだったのだ。
☆演奏スタイルは・・・
とにかくレパートリーは格段に広い。どんな曲でも新鮮な刺戟的な演奏をし、たとえばホルンに強烈なビブラートをかけるのも特徴的で、さらに弦に関しては耽美的、神秘的な響きである。”ストコフスキー・サウンド”とか、”音の魔術師”と呼ばれた所以である。
☆録音は・・・
SP時代に初めてブラームス全集を出したり、映画音楽を数多く録音したり、とにかく自由奔放に活動した印象を持つ。でもそのことがかえって、彼の印象を安けなく見せてしまったことも事実であろう。
☆私見・・・
今日のベートーヴェン7番を知り、”目から鱗”の心境。これからはもっと正面から受け止めて多くの演奏を聴こうと反省している。
☆Myライブラリーより・・・
ショスタコヴィッチ:交響曲第5番 ニ短調
「革命」 Op. 47
ニューヨーク・スタジアム交響楽団
レオポルド・ストコフスキー(指揮)
<日本コロムビアのLP盤>
トスカニーニと犬猿の仲にもうひとり、ストコフスキーがいた。クレンペラーが変人なら、ストコフスキーは奇人というイメージがあった。それは誰が云ったのか、そのように吹聴されていて、クレンペラーはともかくも、ストコフスキーにはそんな印象が勝手につきまとっていた。その一つの原因が、小生が買った3枚目のレコードがストコフスキー指揮ニューヨーク・スタジアム交響楽団のショスタコヴィッチの「革命」にある。
古典派もロマン派もまだまだ分らない時期に、何を思ったか、ショスタコヴィッチの5番、当時の自分としてはわからないままに、ただ第一楽章の冒頭部分と、最終楽章のあの華やかな Allegro non troppo を繰り返し聴き、酔いしれた。その音楽は全く異質のもので、オーケストレーションがとにかくかっこよかった。しかし楽曲そのものは、奇異に映った。
でもその後は、偏見を持ち、ほかの彼が指揮したものは一切聴かなかった。その音楽は、こけおどし的で純粋に観賞するに値しないと思っていた。それもつい最近までそう思っていた。
ところが NML でベートヴェンの第7番を聴いて、愕然とした。これほどの真っ当なベートーヴェンであったとは。7番は、全曲を通してリズムが支配的であり、快い速度で全曲を駆け抜けていく曲であるが、そもそも40分足らずの曲である。最近でこそ繰り返し部分を省いて演奏するものが増え、それでも35分程度だが、このストコフスキーは32分35秒の短さだ。それも拍手音が25秒含んでいてそうである。あの速いトスカニーニでさえも、同じBBC交響楽団を振って、34分28秒を要している。でもストコフスキーのそれは速さをそう感じさせない。第三楽章こそかなりの早さだが、あとはごく自然に流れ、そのスピードが曲全体においてバランスよく、軽快に走り去るような、実に心地よい音楽なのである。
ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 Op. 92
BBC交響楽団/レオポルド・ストコフスキー(指揮)
録音: 23 July 1963, Promenade Concerts, Royal Albert Hall, London
レオポルド・ストコフスキー(Leopold Stokowski, イギリス 1882~1977)は、20世紀における個性的な指揮者の一人で、主にアメリカで活動した。
「革命」の古いレコード裏面に時の名評論家志島栄八郎の解説がある。的確な文章なので全文掲載する。
レオポルド・ストコフスキーは老いを知らない、まるで逆に年をとっているのではないかと思われるほど、いつまでも若さを失わない指揮者である。あのみごとな銀髪、ギリシャ彫刻を思わせるような、彫りの深い芸術的な顔。指揮棒をすて、しなやかな10本の指からつくりだされる表情豊かな音楽。かれは言葉では表現できないふしぎな魅力をもった指揮者である。1882年、ポーランド人を父に、イギリス人を母としてロンドンに生れたかれは、オルガニストとして音楽の第一歩を踏みだした。1905年アメリカに渡り教会でオルガンをひいていたが、1908年シンシナティ交響楽団の常任指揮者に就任。ごく短期間のうちにその実力を相当な高みにまで引き上げた。そしてその腕が買われ、1913年、弱冠31才でフィラデルフィア管弦楽団の常任に迎えられた。それから24年間、このオーケストラを世界一流に仕立てたのである。その後、ニューヨーク・フィルハーモニック交響楽団、ヒューストン交響楽団の指揮者をつとめ、現在はみずから設立したアメリカ交響楽団の常任として、その育成に心血をそそいでいる。
1965年の7月に来日したさい、幸いにしてわたしはかれと会う機会を得たが、その音楽にたいする情熱とスケールの大きさには驚かされた。それはまったく「怪物」という印象であった。
今思うに、この「怪物」が変じて、「奇人」になったのでは、と思ったりもする。フィラデルフィア管弦楽団といえばオーマンディのイメージが焼きついているが、その前に24年間も君臨していたとは凄いの一言。それに、最近では指揮棒を持たない指揮者が増えたが、そのはしりのひとりはストコフスキーだったのだ。
☆演奏スタイルは・・・
とにかくレパートリーは格段に広い。どんな曲でも新鮮な刺戟的な演奏をし、たとえばホルンに強烈なビブラートをかけるのも特徴的で、さらに弦に関しては耽美的、神秘的な響きである。”ストコフスキー・サウンド”とか、”音の魔術師”と呼ばれた所以である。
☆録音は・・・
SP時代に初めてブラームス全集を出したり、映画音楽を数多く録音したり、とにかく自由奔放に活動した印象を持つ。でもそのことがかえって、彼の印象を安けなく見せてしまったことも事実であろう。
☆私見・・・
今日のベートーヴェン7番を知り、”目から鱗”の心境。これからはもっと正面から受け止めて多くの演奏を聴こうと反省している。
☆Myライブラリーより・・・
ショスタコヴィッチ:交響曲第5番 ニ短調
「革命」 Op. 47
ニューヨーク・スタジアム交響楽団
レオポルド・ストコフスキー(指揮)
<日本コロムビアのLP盤>
by kirakuossan
| 2013-11-14 12:30
| 指揮者100選(完)
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